顎関節症

 

あごが痛い。あごの開閉の際に「コキッ」「カクッ」「ミシッ」「パキン」など音がする。口が開けにくい。

顎関節(がくかんせつ=あごの関節)は、耳の穴の前方約1cmくらいに位置し、食事・会話・嚥下(飲み込む動作)といった繊細なあごの動きを担う関節です。構造も微細で、様々な原因によって不具合を生じることがあります。このような症状を総じて「顎関節症」と呼びます。

顎関節症の症状

画像:音の鳴る症状

顎が大きく開くように動くと、関節円板は関節窩と関節頭の間をクッションのように強調して動きます。

01 音の鳴る症状

あごがスムーズに動かなくなり、あごの開閉の際に、コキッ、カクッ、ミシッ、パキン、などと音が鳴ります。

原因

ほとんどは「顎関節円板」という軟骨の位置異常です。関節円板が本来の位置から異常な位置へと偏位して、それがあごの開閉運動と共にまた本来の位置へと戻る、この関節円板の位置変化が起こる時に音が鳴ります。

画像:他の症状

02 他の症状

  • 関節が痛い
  • あごの周囲のコリ・疲労・違和感
  • 口が開かない
  • 口が閉まらない
  • あごの関節が重い
  • 側頭部や耳前部が痛い

原因

夜間や緊張時の食いしばりや噛みしめ、歯ぎしり、悪習癖などが考えられます。基本的には、顎関節を構成している筋肉やじん帯、軟骨や骨のなどの異常が原因となっていることがほとんどです。症状の発現には急性期と慢性期があり、多くは年単位に慢性的に経過していくことが多い疾患です。

治療法・気をつけること

顎関節症の原因をよく理解することで、舌やあごの使い方に注意し、矯正治療でかみ合わせを改善したり、生活習慣の改善やスプリント療法などを用いてあご周囲の筋肉の安静を図ったり、その方の状況に応じた相応しい治療法を選択して症状を改善していきます。

顎関節症の原因

画像:顎関節症の原因

顎関節症は「複数の要因が組み合わさって発症する」というのが近年の一般的な考え方です。さらに個人差もあるので発症にはバラつきがあり、病態が複雑です。

01 不正咬合(良くない歯並び・かみ合わせ)

画像:不正咬合(良くない歯並び・かみ合わせ) 画像:開咬・過蓋咬

かみ合わせや歯並びが「直接的に」顎関節症を引き起こしている場合

開咬や過蓋咬合など、かみ合わせや歯並びによっては、あごの関節に負荷を生じている場合があります。この場合、矯正治療を行って改善することで、顎関節症が軽減される可能性があります。

かみ合わせや歯並びが「関節的に」顎関節症を引き起こしている場合

かみ合わせが悪いことで、食いしばり・歯ぎしり・偏咀嚼(片側だけで噛む)などが起こり、顎関節に負担がかかっている場合があります。矯正治療を行うことで、これらのパラファンクション(食いしばりなどのこと)が解消され、それによって顎関節への負担が軽減される場合があります。

かみ合わせと顎関節症については、様々な議論があります。現在では、かみ合わせの他、生活習慣やストレスなど様々な原因によって、食いしばり・歯ぎしり・偏咀嚼が起こり、結果として顎関節に負担がかかると言われています。

02 ブラキシズム(食いしばり・歯ぎしり)

画像:歯ぎしり・食いしばり 画像:噛みしめ癖・集中時

日常的に食いしばりや歯ぎしりをしている状態をブラキシズムと呼びます。ブラキシズムがあるとあご周囲の筋肉がいつも緊張状態になって、肩こりと同じように凝って疲れてしまいます。肩こりがひどくなると辛いように、あごの周囲の筋肉も同じです。この緊張状態が続いてしまうと、あごの周囲の筋肉だけではなくて、肩や首などの筋肉へも負担となります。また、ブラキシズムが続くと歯が磨り減ったり、歯へも負担となります。

仕事や勉強、スポーツなど集中している時に無意識のうちに食いしばっていることがあります。また、夜、寝ている間にブラキシズムが見られることが多く、ストレスとの関連が言われています。あごの疲れや痛みが朝方や起床時に見られる場合には、夜間のブラキシズムが疑われます。

03 悪い生活習慣

画像:歯ぎしり・食いしばり
画像:歯ぎしり・食いしばり
画像:歯ぎしり・食いしばり

顎関節やお口周囲の筋肉に負担がかかる日常的な癖や習慣のことを悪習癖と呼びます。顎関節症と関連のある悪習癖の代表的なものとして、頬杖・無理なあごの開閉・偏咀嚼(片側だけで噛む)・うつぶせ寝・猫背などの悪い姿勢などが挙げられます。

04 ストレス

画像:ストレス

ストレスが過度にかかると、精神的に緊張状態となり、食いしばりなどのブラキシズムが起こり、顎関節周囲の筋肉の過緊張が起こります。結果として顎関節症を誘発しやすくなる重要な因子です。なかなかストレスをかけないように暮らすことも難しいですが、規則正しい生活、適度な運動、適度なリフレッシュを図ることで、うまく仕事や家庭、人間関係などのストレスを発散するようにしましょう。

05 外傷

転倒や交通事故などの外傷で、顎関節のじん帯や筋肉、関節自体が損傷した場合や、歯科治療などで長時間に無理に大きく口を開けていた場合、無理なあごの開閉運動によって負担となった場合などが考えられます。

顎関節症を起こしやすい代表的な歯並び

顎関節症の複数ある原因の一つ、不正咬合の中でも、特に顎関節への負担が生じやすいタイプがあります。その場合は、将来的に顎関節症になるリスクを軽減するため、矯正治療が有効と言えます。すでに顎関節症を生じている場合にも、症状の進行を防ぐ意味でも矯正治療は有効です。

画像:前歯が閉じない・開咬

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前歯が閉じない・開咬

噛んだときに、奥歯は当たっているのに、前歯は開いてしまっている状態です。この状態を開咬またはオープンバイトと言います。原因は、骨格的なものと、舌や唇などに悪い癖がある場合とが考えられます。本来、噛む力はすべての歯全体に分散されるのですが、奥歯ばかりに負担がかかり、顎関節にも負担が蓄積され、顎関節症を起こしやすい状態です。

画像:下あごが小さくて出っ歯・上顎前突

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下あごが小さくて出っ歯・上顎前突

出っ歯の症状には様々な原因があります。その中でも、特に下あごが骨格的に小さいことが原因の場合には、顎関節症との関連が強いと言えます。下あごが小さく後ろに下がったタイプの出っ歯・上顎前突の場合、あごの関節自体も小さく耐久性が低くなります。このようなタイプでは、顎関節円板のズレが起こりやすく、顎関節症を起こしやす状態です。

画像:あごの曲がり・歯の正中線のズレ

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あごの曲がり・歯の正中線のズレ

噛んだときに、左右のいずれかの歯だけ反対咬合・交叉咬合となるなどの症状が見られます。原因の一つは遺伝的な問題で、例えば、下あごが右に曲がっている人は、左側のあごの過成長が疑われます。他に後天的な原因として、片側咀嚼(偏咀嚼)や頬杖などの悪習癖が成長過程で継続的にあごの非対称な成長へと影響する場合があります。例えば、極端に左右非対称な生活習慣や癖を幼少期から続けているような場合です。左右のかみ合わせがアンバランスとなり、そして左右の顎関節にかかる負担もアンバランスとなり、顎関節症を大変起こしやすいかみ合わせの一つです。

画像:かみ合わせが深い・過蓋咬合

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かみ合わせが深い・過蓋咬合

上下の前歯の重なり合いが深く、下の歯が見えない状態です。ディープバイトとも言います。上の歯が下の歯列に対して深くかみ合っていると、食事や会話の際に下あごの動きを抑えてしまい、歯や顎関節に負担がかかりやすい状態となります。特に噛み込んだ際に、下の前歯と上の前歯により、下あごが後方へ誘導されてしまうことがあります。このような場合、顎関節自体も後方へと押し込まれてしまい、常に圧力のかかった状態となり、顎関節症のリスクが高いと言えます。「かみ合わせの深さ」と「骨格的な噛む力の強さ」には関連があり、比較的エラの張ったようなお顔立ちの方は、噛む力が強く、かみ合わせが深くなりやすい傾向にあり、顎関節にかかる負担も大きくなります。

画像:顎位の不安定・どこで噛んでいいか分からない

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顎位の不安定・どこで噛んでいいか分からない

上下のかみ合わせが安定せず、どこで噛んでいいか分からない、噛める位置が数ヵ所ある、などの思い当たる方は該当する可能性があります。本来、顎関節は関節の中で良い位置が存在します。関節の中での顎関節の良い位置と、かみ合わせの安定する位置とが一致していることが理想です。多少の遊びがあったほうが良いのですが、顎の位置が定まらないタイプの方は、顎関節の位置も定まっていない状態です。このようなかみ合わせの方は、関節円板のズレが起こりやすく、顎関節症のリスクが高まります。当院では、関節の中心とかみ合わせの中心が一致した、安定するかみ合わせを目指した矯正歯科治療を行っています。

顎関節症の治療の流れ

顎関節症の治療を考える時に、まず症状が急性期にあるか、慢性期にあるかを診断します。急性期にある場合には、まず炎症や痛みを抑えるために消炎鎮痛剤などの投薬を行います。症状の緩和を見て、原因を精査していきます。慢性期にある場合には、顎関節症の原因を精査の上、原因に応じた治療を行なっていきます。

治療方針の決定には、顎関節症が生じた原因を探る必要があります。ここでは、顎関節円板の位置異常が原因である場合についてご説明します。

顎関節症治療の手順(スプリント療法)

スプリント

01 検査・診断による治療方針の決定

02 急性症状の緩和(消炎鎮痛剤などの投薬)

03 TCHの是正

04 悪習癖の是正(MFT)

05 ブラキシズムに対するスプリント療法、あごの位置の安定化

06 早期接触や前方・側方へのガイドの不足など、不正咬合に対する矯正治療

07 定期的なフォローアップによる経過観察

TCHとは

人間は通常、リラックスしている時に上下の歯は接触していません。一日の中で上下の歯が実際に接触している時間は、発音や嚥下、食事などの中でも20分程度と言われています。しかし、この上下の歯を異常に長い時間接触させてしまう癖を持った方がいらっしゃいます。この癖を、TCH(Tooht Contacting Habit)と呼びます。

顎関節症のスペシャリストであり、TCHに関する研究や臨床への取り組みの第一人者である、東京医科歯科大学歯学部附属病院 顎関節治療部 木野孔司先生らの研究により、顎関節症の発生とTCHの関連が高いことが分かってきました。上下の歯が接触している時は、あごの周囲の筋肉が活発に働いる状態であり、同時に、顎関節にも圧力のかかった状態となります。正常異常に長い時間、筋肉の緊張や顎関節への圧力が生じることで、様々な顎関節症状や歯への不調が生じることが分かってきました。

そして、TCHを是正する訓練を行うことで、多くの顎関節症状が軽減することが木野先生らの努力によって明らかとなりました。顎関節症を持つ方の場合、まず、このTCHの存在を確認し、TCHが見られる場合には、トレーニングによって悪習癖を除去していくことが必要となります。当院は東京医科歯科大学附属病院との連携医療機関です。必要に応じて、顎関節症治療部へのご紹介も行っております。詳しくはご相談ください。

生活習慣の改善

顎関節症の症状がある場合、生活習慣を改善することで、症状の軽減が期待できます。

顎関節症で矯正治療をお考えの方へ

適切な歯並び・かみ合わせであれば、食事・会話・嚥下の際に上下の歯がバランス良く接触し、顎関節への負担が軽減されます。ですので、矯正治療を行うことで、顎関節症の要因の一つを改善することが可能です。

しかしここで注意が必要なのは、顎関節症は複数の要因が組み合わさって起こるため、「必ずしも矯正治療だけで顎関節症状が治るとは言えない」ということです。かみ合わせがどんなにキレイでも、顎関節症を患っている方もいらっしゃいます。

それでも一つの原因は除去されますので、顎関節症に配慮した適切な矯正治療を行うことで、顎関節症も軽減し改善されることは十分に予想されます。このことをよくご理解いただいた上で、矯正治療を行うかどうかを考える必要があります。詳しくはご相談ください。

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